この記事を書いた人

たじりなおこ
TRE(トラウマ&ストレス解放エクササイズ)で長年の悩みを解消できた経験から「TREをたくさんの人に届けたい!」という想いで活動中。2019年国際認定プロバイダー、2024年アドバンスプロバイダー取得。20代半ばからセラピストとして約7年間、解剖学に基づくメディカルマッサージ、フォーカシングをベースにしたカウンセリングを提供。2児の母。TREで健やかな毎日を過ごしましょう!
▶プロフィール詳細
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たじりなおこ
TRE(トラウマ&ストレス解放エクササイズ)で長年の悩みを解消できた経験から「TREをたくさんの人に届けたい!」という想いで活動中。2019年国際認定プロバイダー、2024年アドバンスプロバイダー取得。20代半ばからセラピストとして約7年間、解剖学に基づくメディカルマッサージ、フォーカシングをベースにしたカウンセリングを提供。2児の母。TREで健やかな毎日を過ごしましょう!
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前回の記事⑥
前回の記事ではショックトラウマ・発達性トラウマの特徴と回復プロセスのヒントをお伝えしました。今回はトラウマによる反応サイクルとそこから抜け出すためにできることをお伝えします。
トラウマは、強いストレスをきっかけに、その状態が回復されないまま身体に残っているとされています。本来であれば危険な状況、身を守らなければならない状況(ストレス状態)が去ったら、安心安全でリラックスできる状態へ戻るのが自然なプロセスなのですが、何らかの理由で脳と体が「危険」「防衛の必要性」を感じ続けたままになっているということになります。
周囲に脅威がないはずの環境でも、深層でピリピリと神経をとがらせているような感じです。この水面下で継続されているストレス状態に、何か刺激が加わるとトラウマの反応が表面化します。一時的に反応がおさまったとしても、根本的な部分に変化がなければまるで無限ループのように繰り返しトラウマの反応が起きる可能性があります。
トラウマの反応は慢性的に体の痛みや違和感として現れるもの、些細なトリガーに反応して常に緊張状態であるものなど現れ方も様々です。その中でもトリガーによってスイッチが押されるトラウマの反応サイクルについてみていきたいと思います。
過去のトラウマ体験を思い出させるような状況、場所、音、匂い、言葉、身体感覚、感情などです。
例えば、幼少期に大きな声で叱られたことがトラウマになっている場合、同じような体格の人物、大きな声、言葉の内容、その時に類似した身体感覚や感情、状況や環境など、いずれかのことがトリガーになる可能性があります。
また、交通事故などの場合は事故に遭った場所に行くと不安感が出たり、もしかしたらそのときに聞いていた音楽などがトリガーになる可能性もあるかもしれません。
明らかな外的な刺激だけでなく、内面に湧き起こる些細な感情や感覚もトラウマ反応の刺激になることがあります。
トリガーの刺激によって脳の危険を察知する部分である偏桃体が働き、トラウマに関連する圧倒されるような感情が出ることがあります。恐怖・怒り・悲しみ・恥などが一瞬にして湧き起こり、自分ではコントロールできない、感情に飲み込まれてしまうような感覚になることもあるでしょう。また、感情のようにはっきりしたものではなく微細な不快感や衝動のような感じで現れる場合もあります。
また自律神経系が防衛反応として、「闘争・逃走・凍結」のいずれかの準備体勢に入ります。心拍数の増減、呼吸数の増減、筋肉の緊張などが起きます。感情が伴わずに、自律神経系の活性化のみが起きることもあります。
自律神経系の活性化によって身体はいわゆる「サバイバルモード」になります。その状況に対処するための反応や行動が現れます。戦ったり・逃げたり、もしくは相手に気に入られるような態度をすることで自己防衛することや、出てきた強い感情や痛み、不快感から逃れるためにそれをまぎらわす行動を選択する場合もあります。
トラウマ体験時やその後の同じような状況を乗り越えた対処法がパターンとして現れることが多いです。
周囲の人からみると、過剰な反応や特異な行動をしているように映り、理解や共感を得にくいこともあるかもしれません。しかし、このトラウマ反応による身体感覚、恐怖や不快感はとてもリアルでまるで窮地に立たされているかのように感じられるため、自己防衛として様々なかたちで乗り切ろうとがんばります。
「サバイバルモード」で起きる自己防衛の反応や行動は一時しのぎにはなるのですが、いずれも自律神経系が安心と安全を感じてリラックスする状態にまでは至りません。そして、そのパターンはいずれも健全なものではないと感じられるため、罪悪感や羞恥心を強めたり、自己肯定感の低下につながります。
ときに、周囲の人からの批判や共感やサポートを得られないことも負の自己認識を強める要因になるかもしれません。
普段の生活の中ではあまりトラウマ反応が出ない場合も、ストレスがかかるとよりトリガーに反応しやすくなります。そしてまたサイクルが繰り返されます。
実はわたしもこのサイクルの経験者です。トリガーから感情的に反応するパターンを繰り返していたのですが、そんな反応が出てしまうわたしは「ダメ人間だ」と十数年以上自分を批判し続けていました。
心理的なカウンセリングでその反応が出る理由、何がトリガーなのかまでは導き出せたのですが、相変わらず感情的な反応がでるのは変わらず。変わりたいのに、変えられない…と悶々とした思いを抱えていました。
そして、それが脳や自律神経系の反応と知ったときは今までにない安堵感を感じたのを今でも覚えています。「ダメな人間」だったのではなく、身体反応の問題だったのです。数年かけて地道に取り組んで、今ではそのサイクルから抜け出すことができています。
深刻なトラウマ体験がある方、重度のトラウマ症状がある方、日常生活に支障が出る心身症状が出ている方は、まずは心療内科やトラウマケアを専門としたカウンセラーさんに相談をおすすめします。身体感覚に焦点を当てながらセッションを進めるSE(ソマティック・エクスペリエンシング)やハコミセラピーなどもおすすめです。
SE Japan 公式サイト:https://www.sejapan.website/
トラウマ反応のサイクルをループしている間は、自律神経系が不安定で芯から落ち着いてリラックスできる時間が少ないと思います。
そもそも、「安心感」がよくわからない場合や、リラックスすることが脅威となってしまうようなトラウマをお持ちの方もいらっしゃると思いますが、ありのままのあなたでいても大丈夫。力を抜いてリラックスして心地よい。という安心感や安全な感覚を身体で感じる練習を少しづつしていくことがおすすめです。体の中に「ほっとゆっくりできるお家」をつくっていくような感じです。
『「安心のタネ」の育て方』浅井咲子 著(Amazon,co.jpへ)
お家ですぐにできる簡単な方法がたくさん書いてあります。好みのものをみつけて日々取り組んでいただけると良いと思います。
すでにご自身のトラウマと向き合っていらっしゃる方もいると思いますが、身体反応が先に出てよくわからないという場合は、繰り返されるパターンを認識して、何がトリガーになっているのかを特定していくとトラウマ反応についての理解が深まります。
過去の記憶や体験を掘り起こす必要はなく、現在、その反応が出るきっかけになっているものが何かを把握するだけで十分です。トリガーがわかれば、それに対応した生活が送れるかもしれませんし、周囲の人になぜそのような反応が出るのか説明することが容易になり、協力をお願いすることもできるようになるでしょう。
なにより、それはあなた自身の純粋な反応ではなく、過去のトラウマを起因とする身体反応であると認知できることで自分を責める気持ちが軽減されることにつながると思います。そして、その客観的に自己観察できる力が道を開いてくれると思います。
身体に備わっているトラウマ反応のエネルギーを放出するメカニズムでサイクルのパターンを変えられる可能性があります。カウンセリングなどサポートしてくれる人がそばにいる安心・安全な環境で身体感覚をたどっていくと、身体の震え、熱感、咳やあくび、涙、感情の放出などが現れてくることがあり、これはトラウマのエネルギーを解放しているサインとされています。わたしがお伝えしているTRE(トラウマ・緊張解放エクササイズ)はエクササイズを使って身体の震えを引き出すメソッドです。
安心・安全な感覚を保ったままそのエネルギーを適切に放出することで、サイクルは別のルートを辿り自律神経系を穏やかなモードへと切り替えることが可能になります。
エネルギーの放出時には、一時的にトラウマを体験したときと同じような心身の状態が現れることがあります。
例えば
・交通事故のトラウマの場合に首、脚、腕の筋肉が硬くなり緊張するような身体の反応
・喉がつまる感覚、言いたいことを飲み込んだときのような感じ
・恐怖、不安、怒り、悲しみなどの感情が湧き上がってくる
・軽い解離のような、意識が少し遠のく感じ など
これらの反応は軽い不快感を伴うことがありますが、その身体感覚に溺れることのないように客観的に観察しながら、そして優しく寄り添って受容してくことで防衛反応が解除され、自律神経系が穏やかに安心できる新しい方向へ切り替わっていきます。このプロセスを少しづつ何度も重ねていくことで新しい回路を構築し、やがてサイクルのループから抜け出すことができるようになります。
トラウマ反応から抜け出していくプロセスは本当に根気のいる作業だとわたしは思っています。数段飛ばしで進むことはできないぶん、小さな歩みで進めていくことが逆戻りの少ない安全な方法なんですね。そして変化は直線的ではなく、良くなったり戻ったりを繰り返しながら前進してくものだと思っています。
ときにくじけそうになるかもしれませんが、どんな手法でも地道に続けていくことでその反応を変えられる道が開けてくるとわたしは信じています。
トラウマの度合いによって、スタート地点に個人差がありますので、特に深刻なトラウマ体験をお持ちの方は、まずは専門家のところにご相談いただくのがおすすめです。もしTREにご興味をお持ちいただけたらお気軽にご連絡ください。