目次
はじめに
交通事故の後に車の運転が怖さや不安を感じる方は多いと思います。自分で運転しなくても車に乗るだけで心身が緊張したり、心臓がドキドキしたり、冷や汗が出てくるようなこともあるでしょう。
交通事故被害者の精神的負担の調査研究をした内閣府の交通安全対策の資料 (資料より一部抜粋)によると、事故後1か月以内に被害者が感じた精神的負担で割合が高かったものは「突然に事故のときの光景がよみがえる (49%)」、「事故のことについて考え込んでしまう (35%)」、「事故を思い出させるようなものや場所を避けてしまう (31%)」、「また同じ事故にあうのではないかと心配だ (31%)」となったそうです。
また、事故後1か月以上経過の調査でも「また同じ事故にあうのではないかと心配だ (46%)」、「事故に関わることは考えないようにしている (30%)」といった不安や心配が続いていることがわかり、生活の変化としては「外出する回数が減った (44%)」、「経済的に苦しくなった (24%)」、「趣味や遊びをしなくなった (23%)」、「仕事・学校を休みがちになった (19%)」など、生活の質を低下させるような影響がみられたそうです。
突然の出来事によって、身体的・精神的に大きなダメージを受け、それが長期にわたるとその体験がトラウマになってしまうことがあります。
怖いのは身体があなたを守ろうとしているから
事故の後に、「運転が怖い」「車に乗れない」「事故現場の道路を通れない」などの気持ちが湧いてくると、心の弱さや情けなさを感じる人も多いかもしれません。しかし、それは心の問題ではなく身体(脳と自律神経系)の防衛反応が働いている証拠 です。身体の防衛反応はとても優秀で、再び危険な目に合わないように無意識のレベルであなたを守ってくれています。(これが過剰になると困るのですが…)
怖いという気持ちの他に、フラッシュバックや不眠、食欲不振、情緒不安定、疲労感などが出ることがあり、事故後しばらくの間のこのような反応は自然なことで、時間の経過と共に収まることもありますが、一方で、これらの反応が慢性的、長期に渡る場合はその出来事がトラウマ体験になってしまった可能性があります。
トラウマは脳と自律神経の働きによるもの
事故のとき、脳や自律神経は身を守るための働きをします。自律神経の新しい理論であるポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)をもとに、自律神経の反応とトラウマのプロセスを説明したいと思います。
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通常時(事故の前)
日常生活モードでは緑色の線がゆるやかに上下しながらバランスしています
自律神経が健全に働いているときは、仕事や活動などの適度な活性化とリラックスを交互に繰り返しています。
一時的にストレスがかかったとしても、休息することで回復して、また活動することができます。
ストレスの多い現代社会では実際はこのような理想の波型をしている人は少ないかもしれませんが、全般的にバランスが保たれている状態です。
Phase
事故の直前~直後
脳(偏桃体)は危険を察知し、自律神経が活性化され「戦う・逃げる/凍りつく」反応 をします。身を守るための本能的な防衛反応です。
日常生活モードの緑色から過覚醒モードの赤線に急激に変わります
戦う・逃げる(交感神経)反応
危険を察知して交感神経が活性化します。「火事場の馬鹿力」のような大きなエネルギーで身体を守る働きをします。心臓がバクバクしたり、呼吸が荒くなったり、アドレナリンが分泌されます。
強い恐怖感やパニックのような感覚、衝突時には筋肉が硬直して身を守ります。
過覚醒モードの赤線から低覚醒モードの青線になります
凍りつく(背側迷走神経系)反応
状況に圧倒されて、あまりにも強いストレスがかかると背側迷走神経系が優位になり、身体機能を「シャットダウン」をして生命維持に努めます。
意識が現実から離れてしまうような解離感、スローモーションのように見えるなどの他に、気絶をしてしまう場合なども想定されます。
「戦う・逃げる/凍りつく」反応をする自律神経は《サバイバルモード》 になっています。
Phase
トラウマ反応と回復
運転に対する不安や怖さだけでなく、身体的な反応や行動の変化として出てくるトラウマ反応は下記のようなものがあります。
これらは慢性的に続く反応として現れる場合と、特定のトリガー(引き金)によって生じる反応として出る場合があります。
慢性的な反応の例としては、疲労や不眠の持続、無気力、怒りっぽくなる、また治療した患部や身体の一部に痛みや違和感が続くといった状態などが挙げられます。一方、トリガーによる反応では、頭では「もう運転は大丈夫」と理解していても、いざ運転席に座ると心臓が急にドキドキしてしまったり、事故現場の近くを通ると当時の記憶がよみがえって冷や汗が出る、救急車のサイレンに反応して急に不安や恐怖が湧き上がるといった例が挙げられます。
断片化されたサバイバルモードがトリガーによって活性化される
トリガー(引き金)が作用すると、身体は事故当時に体験した“サバイバルモード”を瞬時に呼び起こし、自己防衛の態勢になります。 本来であればまったく危険のない状況であっても、神経系が過敏に働くことで、感情が揺さぶられたり、身体が緊張したり、不安や恐怖が込み上げてきてしまうのです。
心と体の安心を取り戻すには
身体に深く刻まれた断片化された自己防衛反応は「時間が解決してくれる」ということにならないことも残念ながらあります。トラウマ反応が長期化してくると日常生活にも影響が出てしまうので、早い段階で専門家の手を借りることもおすすめです。
わたし自身は、トラウマケアの身体的アプローチとしてTRE(トラウマリリースエクササイズ)を提供しています。簡単なエクササイズによって身体の自然な震えを引き出し、深層で固くなった筋肉の緊張を緩め、自律神経の機能を調整することで回復を促します。
関わらせていただいたセッションやプロバイダー仲間からの報告では10年以上も前の事故によって残ってしまった首の違和感が改善された例や、衝突時に緊張した腕や足のつっぱりなどが振動と共に緩んでいく様子を見せていただいたことがあります。TREに関して詳しくはこちらのページ をご覧ください。
事故後のケアにもいろいろな手法があると思いますが、いくつか組み合わせることで回復を早める助けになることもあります。一般的に知られている手法を下記に記載しますのでご自身に合うものを探してみてください。
① 心理的ケア ・精神科・心療内科(薬物・認知行動療法など) ・心理カウンセリング etc.② 身体的ケア :筋骨格などを整えることで緊張の緩和、自律神経を整えます ・整体 ・オステオパシー etc.③ 身体心理的トラウマケア :身体や身体感覚からアプローチする ・SE(ソマティックエスペリエンシング) ・EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法) ・TRE(トラウマリリースエクササイズ) etc.④ セルフケア :日々の生活の中で穏やかな神経系を育てたり整えたりします ・呼吸法(マインドフルネス、瞑想など) ・ヨガや軽い運動 etc.⑤ 運転再開へのステップ ・信頼できる人に同乗してもらい、短い運転から再開する ・症状によっては病院などで提供されている「自動車運転再開支援」を受ける etc.
まとめ
交通事故のような一時的な強いストレスからくるトラウマを突然抱えると、ご本人も周囲の方もどのように対応したらよいのかわからないこともあると思います。「そのうち良くなるだろう」とは思わずに、必要を感じたらぜひ適切なケアへ一歩踏み出していただければと思います。安心して運転が再開できるようになるよう応援させていただきますので、お気軽にお問合せください。